音楽工房すばる

音楽について、気づいたことを書いていきます

詩のイメージから曲をアレンジする 〜きらきら星〜  2/2

前回は『きらきら星』の曲の成り立ちと、詩について知ることができました。これをもとに、実際のアレンジに取りかかっていきましょう。

 

今回はピアノソロにアレンジします。

 

ひとつだけ条件として、小さな子でも弾けるようにします。(それぞれの指はオクターブより狭い範囲に収まるようにして、速いパッセージは登場させず、もとのメロディーは崩さないようにします。)

 

『きらきら星』の詩を書いたのはジェーン・テイラーという詩人でした。彼女が生まれたイギリスと原曲が生まれたフランスは領土を巡って争い、現在の北フランスをイングランド王国が占領する時期がありました(百年戦争/1337-1360)。その際にフランスにもたらされたのが、3度や6度を多用するイギリスの和声です。

 

当時の合唱曲を紹介します。ジョン・ダンスタブル(イングランド)のVeni Sancte Spiritusです。こうした3度や6度の音程で旋律をなぞる手法は、デュファイ(フランス)を代表するブルゴーニュ楽派に引き継がれ、’フォーブルドン’と呼ばれる技法としてフランスに定着します。

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イギリスとフランスをつなぐ6度の音から、アレンジをスタートしましょう。ベースと主旋律の間を短6度、星の光が揺らぐ感じを出すのに、主旋律の短2度下にミの音を重ねました。コードで見ると、Fメジャーセブンス(第一転回形)が出来上がります。

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ここで、この曲の偉大なアレンジャーを忘れてはいけません。モーツァルトです。彼の生前にテイラーの詩はありませんでした。彼の変奏曲はシャンソンの原題に従って、"12 Variationen über ein französisches Lied "Ah, vous dirai-je, maman"(フランスの歌「あのね、ママ」による12の変奏)という題で作曲されています。

 

彼が得意とした半音階的な動きをもじってみましょう。5小節目から、内声に刺繍音のように上下行する伴奏音型を差し込みますが、この音型は'基音も挟み込む音も非和声音'という危ない扱いです。音楽の冗談として捉えてください。

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9小節目からまた、もとのメロディーに帰ってきます。和声の大まかな形は変えず、模様替えのように、少し音の配置を変えました。

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 合計12小節の簡単なアレンジが出来上がりました。曲を聴いてみましょう。

・きらきら星(子どものためのピアノピース)/ Twinkle Twinkle Little Star ~Piano piece for Chirdren~

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星が小さく光る感じが出ていれば幸いです。

あなたも是非、自分だけのアレンジを作ってみてください。

 

 

詩のイメージから曲をアレンジする 〜きらきら星〜  1/2

 

今回はアレンジの話です。曲や詩をもとに編曲を進めていきましょう。題材として、童謡の「きらきら星」を選びました。

 

きらきらひかる~」の歌い出しから始まるこの曲を、皆さんもどこかで歌われたり聴かれたりされたことがあると思います。

 

この曲は、もともとフランスの歌謡曲シャンソン)で、”Ah, Vous diiris - je, Maman" (あのね、ママ)の題で18世紀の終りに流行しました。現在、日本で親しまれている『きらきら星』の歌詞のもとになったのは、イギリスの詩人、ジェーン・テイラーが書いた"The Star"という英語詩です。これが”Twinkle Twinkle Little Star"の名で先述のシャンソンの替え歌として歌われ、その詩が世界中に広まったのです。

 

実際の詩訳をご覧になられた方は意外と少ないように思います。『子供と歌える英語の童謡  歌詞の和訳』さんが編まれた訳を、こちらでご紹介させていただきます。(全文は、上記翻訳サイトからご覧いただけます。)

 

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きらきら光る 小さな星

君は何ものなんだろう

この世界より遥か高く

空のダイヤモンドみたいに輝いてる

 

燃える太陽が去って

照らすものがなくなると

君は小さな光を見せてくれる

きらきら 一晩中

 

旅人は闇の中で

君の小さなきらめきに感謝する

君が輝いてくれなかったら

旅人は行く道が見えないんだ

 

闇に染まる蒼い空で 君はよく

僕のカーテンからのぞき見してる

絶対に目を閉じないね

太陽が空にかかるまでは

 

 きらきら光る 小さな星

君は何ものなんだろう

この世界より遥か高く

空のダイヤモンドみたいに輝いてる

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曲の成り立ちと詩の背景が分かったところで、今度は実際のアレンジに取りかかりましょう。

 

(2/2へ続く)

 

ことばとリズム

[ことばと音楽の関係について]

 

私達が普段使う言葉は、そのままリズムに結びついています。

日本の俳句は五・七・五で詠まれ、その作品は「歌」と呼ばれます。

 

言葉の伸び縮みも、リズムを生む大切な要素です。

臨床医の徳永進さんは、人の言葉にひそむ「長音」に着目しました。(長音とは言葉を伸ばす時に使う音で、『ー』と書かれる記号です。)

 

人は怒りの感情を言葉に乗せる時、「あいつー」や「この野郎ー」といった語尾を伸ばす表現をよく用います。反対に日常会話のやり取りでは、単語の真ん中に長音が登場します。「〇〇さーん」、「面白ーい」、「あーあ」など。文章からも間延びした感じが伝わってきますね。

 

私達は普段、こうして無意識に言葉の持つリズムの中で暮らしています。

胸に手を当てて下さい。言葉より前に、心臓がしっかり拍を打っています。

 

リズムは、私達から離れたところにあるのでなく、人が生きる一番近く。喋るとき、歩くとき、感情を伝え合うとき、心臓を動かすとき。その傍にあるのです。